『死刑』森達也

森達也さんの『死刑』を読んだ。大変わかりやすく書かれていて、押し付けがましくないところが、本当にすばらしいと思う。死刑制度に対して、森さん自身が、廃止論者や、存置論者、死刑確定囚、刑務官、被害者遺族、多くの『死刑』に関係する人たちと、関わりながら、悩み考え、そして最後に、彼自身の結論を述べる。

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

読みながら、私も「死刑」という制度について悩み、考える。読み終わっても、やっぱり私は全然整理できていなくて、もちろんできるはずもない、とっても難しい問題なのだけど、この本の感想、とか、死刑に対する考え、とかをうまく表現できない。割り切れない。森さん自身も、この本を書き終わる時点での結論は述べているけれど、その考えだって、ゆれる可能性があることに、気づいているのではないかと思う。「もうこの確信はゆれない」としながらも。
本の中では、光市母子殺害事件の本村洋さんが、森さんに宛てた、手紙の内容が一部紹介されていて、私の彼に対する偏ったイメージがあることに気づかされた。自分の妻と子を殺した犯人が死刑に処されることを強く求めながらも、一方で彼は死刑と言う制度に対して、思い悩んでいるのだという。メディアでは、彼が死刑を強く求める姿しか、伝えられなかった。私は知らなかった。私は、どちらかといえば、死刑廃止の立場に近いのだと思うけれど、最後のほうに出てくるこの本村さんの言葉がまた私を混乱させた。でも、私は混乱しなくてはならないのだと思った。
他者の感情や立場に対する想像の努力を、絶対の理解は無理だということを承知しながらも続けていくことが、いかに大切か、いつも森さんは教えてくれる気がする。